「クドリャフカの順番」 米澤穂信(角川文庫)

「愚者のエンドロール」では、主人公であるホータロー(主人公・折木奉太郎)が苦味を噛みしめる結果となりましたが、今作「クドリャフカの順番」ではホータローを始めとする幾人かが持つ類稀なる才能に対し、持たざる者が感じてしまう劣等感がクローズアップされ、それが“期待”というキーワードで紡がれています。

作品はこれまでのホータローの一人称から変わり、古典部メンバー全員の一人称で進むという構成で、それぞれの内面がより際立つようになっているので、前々作「氷菓」、前作「愚者の~」を読んできた読者にとっては、新鮮な気持ちで読むことができます。


あらすじ。文化祭に向けて文集を作ってきた折木奉太郎たち古典部のメンバー。しかし、手違いで文集「氷菓」を多く刷り過ぎてしまった。部員たちが文章を何とか売ろうと奮闘する中、学内では奇妙な連続盗難事件が発生。ドリンク、碁石、タロットカード、おたま……。現場には、“十文字”なる人物による犯行声明書! 古典部は、この事件を解決して知名度をあげようと画策する、……という。


いきなり言ってしまうと、今回のホータローの推理はハンパない。「氷菓」「愚者のエンドロール」での推理では、ホータローやるなぁと感じたとしても、それはあくまで探偵役止まりの活躍でした。でも今回の「クドリャフカの順番」では違います。探偵役じゃない。名探偵です。本格推理物に出てくる名探偵顔負けの推理です。しかも安楽椅子探偵で事件を解決……笑

おいホータロー! その無自覚は、探偵役志願の周囲の人間には辛辣だぞ!

……ということで、いくつかの点で前作「愚者の~」と対になっている点がおもしろい。入須が言った「君は特別よ」という言葉をはからずも実証してしまったホータローと、才能ある者の無自覚は辛辣という事実を突き付けられた、その他の人々。この構成、うますぎる。

本人は全然そんな自覚はないし、学内のほとんどの人間もホータローは特別であるということを知らない。作中で彼を特別だと思っているのは、ホータローを除く古典部の面々くらい。しかし、実は読者だって知っているのです。ホータローは特別だ、と。

そして、はたと気付きました。ああ、そうか。古典部には5人目のメンバーがいた。ホータローを認める5人目のメンバーが。それは、僕だ。読んでいるうちに、自分は古典部のメンバーになっていたんだなぁ……。ここまで来たら、古典部シリーズは読み続けるしかないっす笑


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さて、ここからは読み終わった人にしかわからない書き方をします(よって、ネタバレにはならないと思いますが……、気になる方は見ないでください)。

読み終えて、正直、「なぜ“クドリャフカの順番”は描かれなかったのだろう」ということを疑問に思いました。熱が冷めてしまったと言えばそれまでなのですが、ちょっと弱いかな、という気がしたのです。

で、ネットで感想を漁っていたときに回答を与えてくれたのが、この記事↓

(ネタバレなので、未読/未見の方は絶対に読まないように)
アニプレッション こんなにも面白い『氷菓』の世界 第17話
http://anipression.doorblog.jp/archives/51360467.html



「あの人物は、なぜ“クドリャフカの順番”を描かなかったのか?」
      ↓
「3人でワイワイすることが楽しかったから」

腑に落ちた。むちゃくちゃ納得してしまった。これ。まさに、これだと思う。

そうなんですよね。何かを成し遂げるときに、その何かを成し遂げること自体が大事な場合と、笑いながら騒ぎながら成し遂げることが大事で、成し遂げるべき何か自体は大事ではない場合ってあるんですよね。今回の話は、そのあたりのすれ違いが生んだ苦い一面なんだと思いました。

ここでも、前作「愚者の~」との対比があります。「愚者の~」のラストで本郷は、「いちばんの望みは、みんなで、できたってばんざいすることでしたから」と言っています。本作を読み終えた後、物語に連続性はないけれど前作「愚者の~」のラストを想起させるという構成。……うまい、うますぎる。

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